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機関誌「エフ」

Fプロジェクト 第5回 沖電気工業 篇

OKIイノベーション・マネジメントシステム YumePro
「革新を生む仕組みを独自に築き社会の未来を拓く!」

 2019年10月、経済産業省は、「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」を策定した。同年7月に発行された国際標準「ISO 56002」の考え方をもとに、既存事業の維持だけでなく新たなイノベーションを生み出すための変革を目指す企業に向けたものだった。この指針の策定にあたり、沖電気工業の取り組みが企業の挑戦の好事例に挙げられた。イノベーションを生み出すためのシステム構築と社内意識改革、時代を先取りするプロジェクトの道筋を追った。

トップマネジメントの危機感

 本誌2018年秋号のトップインタビューで、鎌上信也社長は、企業風土を変革したいとの思いから、イノベーション推進部を誕生させ、「YumePro」と名づけたイノベーション・マネジメントシステム(IMS)を推進していることを熱く語っている。
 沖電気工業(以下OKI)は日本初の通信機器メーカー、プリンターや現金自動預払機(以下ATM)を製品として思い浮かべることが多いように、社会生活を安全かつ便利にする機器を世に送り出してきた。しかし、第4次産業革命といわれる情報技術革新のさなかで、鎌上社長は強い危機感を抱いていた。
 ペーパーレス化はプリンターの需要を減らし、キャッシュレス決済が浸透すれば銀行のATMも必要なくなる。IoT、AI、ビッグデータ、5G……。新たな経済価値が生まれ、世界4大IT企業のGAFA(ガーファ)を筆頭に新興勢力が、急成長、急拡大している。従来の事業の延長線上で考えていたのでは、将来への展望は開けない。発想の転換、社内の意識改革が必要だ。
 ここで話はYumePro誕生の半年ほど前に遡る。
 2017年8月、鎌上社長は政策調査部長だった横田俊之さん(現、執行役員)を、OKIのIMS構築の責任者に指名した。横田さんのもと社内各部門から5人が招集されイノベーション推進プロジェクトが生まれた。
 まずIMSの考え方を学ぶ必要があった。横田さんは、社団法人Japan InnovationNetwork(以下JIN)に協力を仰いだ。JINは、組織的にイノベーションを興す「イノベーションマネジメント」手法の塾を開いていた。プロジェクトチームのメンバーは、そこでIMSを構築するための考え方や手法を学び、同時進行でOKI独自のIMSの仕組みづくりをすることになった。
 最初に行ったのが、役員、新規事業担当者・経験者50人へのインタビューだった。社内の課題を徹底的に洗い出した。
 「社長には、月2回のペースで経過報告をしていました。アンケートから見えてきた課題とその解決策について、社長とF2Fで徹底的に議論をしました」
 プロジェクト立ち上げ以来イノベーション推進事業に携わる藤原雄彦さんも、イノベーション塾で学んだメンバーのひとり。自分自身の物事の考え方に大きな発想の転換があったと当時を振り返る。
 「自分たちの技術や製品を軸に何ができるかという発想には限界がある。何が世の中の課題なのか、顧客は何に困っているのか、それを解決するために、自分たちは誰に何を価値提供できるのかを徹底的に考えることを学びました」
 こうしてOKI独自のIMSの骨格が形づくられていった。

  • “OKI”דSDGs”の「YumePro」初の成果は「AIエッジロボット」(上)。自律動作ロボットと運用センターのコックピットからの遠隔操作との組み合わせで、様々なシーンで現場業務の省力化と効率化が期待できる。

  • OKIの将来を託されイノベーション推進プロジェクトを立ち上げた横田俊之さん(右)と藤原雄彦さん。

  • 草創メンバーでありイノベーション推進のキーマンとしてプロジェクトをリードする藤原さん。「参画してまず自分自身が変革されました。招集された当時の上司からも『視野が広がったな』と言われましたね」。「YumePro」への思いと話は尽きない。

  • イノベーション・ダイアログでは鎌上社長(右手中央)と各地から集った社員とが談笑も交えながらこれからのOKIについて語り合う。

YumePro発進

 2018年4月、コーポレートの経営基盤本部(当時)にイノベーション推進部が発足、「YumePro」がスタートした。
 YumeProは、国連が定めた持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」 実現への貢献をビジョンとして掲げ、社外の企業や組織とのコラボレーションにより、新たなイノベーション創出に挑むためのマネジメントシステム。同時に、イノベーションが日常的な活動となる社内文化を醸成するための意識改革プロセスでもある。
 藤原さんをはじめとするイノベーション推進部メンバーの試行錯誤の日々が始まった。
「一年目の新規事業開発は、まずは自分たちだけで試験的にやってみようとしたのですが、新規分野での目指す姿や顧客の困りごと取得が不足して、なかなかうまくいきませんでした」
 その反省から、翌19年度から、営業も研究開発センター(当時)も巻き込んで一緒に活動することを決めた。営業は顧客を知っている、研究開発は技術的な裏づけをもっている。それぞれの強みを活かし部門連携しながら、ビジネスの仮説を立てる。その仮説を顧客に提案し、磨くことを繰り返す。まさに“チームOKI”でイノベーションに挑戦すること。この取り組みは次第に成果をみせ始めることになる。
 並行して、18年度から社内にイノベーション塾を立ち上げ、社内意識改革への取り組みも進めていた。塾長には、入社以来、技術者としてVoIP(Voice over Internet Protocol)など数々のイノベーションを牽引してきた千村保文さんが就任。いくつもの施策が矢継ぎ早に実行された。

技術者たちの熱意も加わり、「AIエッジロボット」はわずか4ヵ月半ほどで試作品が完成、出展された。

 たとえば、イノベーション研修。イノベーションの考え方、SDGsの視点から顧客の課題をみつけ、ビジネスモデル化する方法などを、ワークショップ形式で学ぶ。この研修は、まず役員からスタートし、部門長、部課長、一般社員へと広げていき、年間1000名以上が受講している。
 「新規事業はすぐに成果に結びつくものではありません。若手や中堅の社員が新しい挑戦をするためには、上司の理解と後押しが欠かせませんので、まず上司の意識改革から始めたのです」と千村塾長は語る。
 また、鎌上社長が10人程度の社員と昼食をとりながら、膝詰めで語り合うイノベーション・ダイアログという取り組みも定期的に実施している。この対話には、全国のさまざまな部門から参加者が集まり、現場の思いを社長に届け、社長はYumeProへの思いを伝える場となっている。
 そして新規事業案や既存事業改革案を募り、最大1億円の予算で支援する社内アイデアコンテスト「YumeProチャレンジ」。この試みからは成果も生まれている。
 「YumeProチャレンジ2018」で大賞を受賞したアイデアをもとに“チームOKI”で開発した「AIエッジロボット」だ。このロボットの試作機は、2019年10月、IT・エレクトロニクス分野の最先端技術が集結するアジア最大級の国際展示会「CEATEC2019」に出展され、話題を集めた。現在、共創パートナーとの実証試験などの計画が進んでいる。

  • OKIイノベーション塾で行われる研修は、千村塾長(右から3人目)のもとスピード感をもって活発に進んでいく。

  • 「YumeProチャレンジ」は公募制。「夢を現実のものにしたい」と、提案者は鎌上社長や関係役員たちに向けてアピールする。

2020年4月、イノベーション推進センター新設

  YumeProスタートから3年目、イノベーション推進部と研究開発センターを統合したイノベーション推進センターが新設された。社長直轄組織としての機動力が期待されている。
 「一気に140人体制になりました。19年度に“チームOKI”で手ごたえを感じることができましたが、これからさらに研究開発とのコラボを強化して、今年もCEATECで注目されるようなコンセプトを世の中に出したい」とイノベーション推進部部門長を経て新センター長となった藤原さんは語る。
 すぐに収益につながるわけではなく、成果がみえにくいイノベーション事業。自社の能力を社会課題解決に活用しながら未来を切り拓いていこうとするOKIの歩む道は、決して平坦ではないかもしれないが、希望という光に照らされている。

  • イノベーション推進センターの研究開発拠点がある、埼玉県蕨市の「OKIシステムセンター」。

  • センター長に就任した藤原さんを中心とするイノベーション事業の新メンバーたち。社会貢献を目的にさらなる充実と進展が期待される。

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