Fプロジェクト 第2回 クレディセゾン 篇
東池袋52
「情熱の突破力」
2017年5月19日、「東池袋52」というワードがネット上を駆け巡った。 クレジットカード会社クレディセゾンとその関係会社の女性社員によるアイドルグループの名前だ。 同日公開のデビュー曲「わたしセゾン」のプロモーションビデオは、クオリティの高さから「本気すぎる!」と話題騒然。 その後の3曲のシングル発表や、各地でのライブ披露という活躍につながった。 企業の新たなPR戦略と注目を集めた「東池袋52」と仕掛け人たちの1年2ヵ月の軌跡を追った。
若年層には、これまでの広告手法が効かない
カード事業部営業企画部長の相河利尚さんは、広告宣伝業界では名前を知られた人物だ。2004年おじいちゃんが鉄棒で大車輪をして世間を驚かせた「永久不滅ポイント」のCMなどを手掛けてきた。 その後約5年間営業の最前線に立ち、2013年に再び広告宣伝の担当部署に戻ると、愕然とした。広告宣伝の手法が大きく様変わりしていたのだ。ネットが主流の若年層には従来の手法が効かない。どんなメッセージ発信が効果的なのか…。思案に暮れていた2016年秋、ある情報を耳にした。人気アイドルグループが「二人セゾン」という新曲を11月に発表するという。 「まるでセゾンカードの応援歌じゃないか。なんとかPRに利用したい」 アプローチを試みるものの、スポンサー契約の関係で希望は叶わない。その間「二人セゾン」はヒットチャートで上昇、件のアイドルグループは紅白出場が決定。SNSには「セゾンカードの曲だと思った」「セゾンはなぜあれを利用しないんだ?」という声が上がった。 若年層に発信できるこのチャンスを活かしたい。年末を迎えたころ、相河さんは、長年セゾンの広告制作に関わっているコピーライターの仲畑貴志さんに思いをぶつけた。 「じゃあ、自分たちでやればいいんじゃない?」
仲畑さんの歌詞が届いた。もうやるしかない
年が明けて2017年1月、仲畑さんから「歌詞を書いた」と連絡があった。2月2日、歌詞を受け取った。タイトルは「わたしセゾン」。"勝手にアンサーソング"というキャッチコピーが付けられていた。あの「二人セゾン」へのアンサーソング…。きっと話題になる! 仲畑さんがここまでやってくれたのだから、もう前に進むしかない。 中途半端なものは作れない。作曲や振付、映像制作も第一線で活躍する人たちに声をかけた。すると、「仲畑さんとセゾンの仕事なら」というスタッフが集まってくれた。 相河さんには、この歌に懸けるもうひとつの思いがあった。クレディセゾンと多様な関係会社で働く全社員の気持ちをひとつにして、もっと元気になってほしい。それが会社のエネルギーになる。「わたしセゾン」を歌うメンバーは、全国の関係会社を含めた社員で構成しよう。 しかし、またもや壁。「どうやって選ぶのか」「仕事が忙しいのに、さらにアイドル活動なんて」…。理解は容易には得られず、"不可能"を言い立てる様々な声が行く手を遮った。 そんな中、「面白そうですね、協力します」と手を挙げたのが、相川耕平課長だ。飄々とした中にも懐の深さが漂う。同じく協力を申し出てくれた檜皮みなみさんには、女性社員アイドルの世話役をお願いした。 グループ名は「東池袋52」に決定。クレディセゾンが東池袋「サンシャイン60」の52階にあることに因む。相河さんは反対の声にひるむことなく、全国の営業所責任者やグループ会社の社長に直接掛け合い協力を依頼。なんとか24人のメンバーが揃った。 3月はじめからダンス練習を開始。業務都合もあり、全員が一堂に集まることはできない。ダンス経験者は9人。振付についていけないメンバーが多かったが、もう、やるしかない。各自、渡された映像を見ながら練習を重ねてもらうことになった。メンバー同士で居住エリアが近ければ、ダンスの得意な人が指導役に回り、業務を終えた後や休日に懸命に振付を覚えた。 そして4月21日、早朝から14時間におよぶプロモーションビデオの撮影を実施。メンバーは猛特訓の成果を発揮してくれた。 「1ヵ月半、本当に一生懸命練習してくれて、慣れない撮影も笑顔でがんばってくれたメンバーへ、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました」 マネージャー役を担った檜皮さんは、撮影終了後に熱い涙を流した。
公式サイトでデビュー。
"女性社員の本気のアイドルグループ"と話題沸騰!
5月19日、公式サイトでプロモーションビデオを公開。 早朝からデビューの情報が流れたこともあり、アクセス数が急上昇した。 作詞の仲畑さんを筆頭に、制作スタッフたちは人気アイドルの活動にも関わるプロ集団だ。公開された動画の中には、まさにアイドルたちの姿があった。 ネットで大きな波に乗ると、様々なマスメディアでも大きく取り上げられた。CD「わたしセゾン」は永久不滅ポイントの交換商品として1ヵ月で5000枚の申し込みを記録。全国の商業施設からライブ出演の依頼が舞い込み、西武球場でのライオンズ戦や横浜アリーナのアイドルイベントにも招かれた。多くの要請に応えられるよう第2期メンバーを募集、年末には総勢42人になった。 相河さんは、振り返るように言葉を括った。 「ただ前を向いて駆け抜けた1年数ヵ月でしたが、『東池袋52』は、世間の人にあらためて『セゾンは面白いことをする会社』と思っていただくきっかけになりました。そして、インナーブランディングにも役立ったと自負しています」 2018年1月22日、「東池袋52」のメンバーを起用したクレディセゾンのCMがオンエアされた。仕掛け人たちの本気と、仕事もアイドルという役割も果たした女性社員たちの本気が、テレビ画面の中で光を放っていた。
Inner Branding
インナーブランディングも同時進行
相河さんは、クレディセゾンが元気になるためには、社内の活性化も重要と考えていた。2016年に実施した社内アンケートをもとに、同年9月に人事制度、職場環境、働き方改革、営業現場の意見の4項目について提言。課題解決へ向けて動いていた。 クレディセゾンは、2017年4月、社員のアンケート結果を受け、執務スペース、受付スペースをリニューアル、9月には人事制度を改定し全社員を正社員化している。 「東池袋52」の話題性と活躍はクレディセゾンと関連会社の結集力を強め、活気づけることにもつながった。